日本を代表する理学者である稲峰博士は、留学中にリ教授の知己を得て地球空洞説の信奉者となるが、ちょうど一年前の夏、美貌の都美子嬢ととともに冨士山麓、青木ケ原の樹海にある洞穴探検に出かけたまま失踪する。
博士らは、戦国の頃の修験者、角行が書いた『冨士人穴胎内記』という古文書を見つけ出し、それとリデンブロック教授の甥が書いた手記(『地底旅行』そのもの)にいくつもの類似点があることを発見。地球中心への旅に出かけたというのだ。
そこで主人公たち、挿絵画家の野々村、まったく信用ならない友人の丙三郎、稲峰博士の一番弟子で都美子嬢を慕う鶏月、稲峰家の女中サトの4人が、博士の残した研究ノートをもとに、博士らの救出に向かう。丙三郎の魂胆は、やはり青木ヶ原の洞穴に隠されているという武田信玄の埋蔵金にあったのだが・・・・。
以上がいきさつで、ここから先はネタばれになるので書きにくいのですが、「地底旅行」に忠実でありつつ、多くの新機軸が盛り込まれています。
まず、巨大空洞(高天原)までは、自然にできたとは思えない二重螺旋状のトンネルを下って到達します。その途中には光るコケやサンショウウオやネコという謎の生き物に出会います。
到着した巨大空洞は、おおむね「地底旅行」の世界にあわせてありますが、なぜか植物と肉食獣しかいません。あとのほうで巨大空洞の構造についての説明がでてきて、これなら地震波トモグラフィーで見つからなくても不思議じゃない説明となっています。
なぜリデンブロック教授が徒歩でアイスランドから潜ってイタリアの火山から出てくることができたのか、なぜ富士山の下に同じようなものが存在するかもちゃんと説明できる理屈になっているのですが、実はこの新・地底旅行は、さらに地球奥深く、溶鉄の海「外核」にまで至ることになります。
これをいったいどんな存在が何のために作ったのか・・・・・・。夏目漱石風のレトロな雰囲気とは裏腹に、創造の翼を存分に羽ばたかせた、実にあっぱれなSFです。
新聞連載当時にあった挿絵は、この文庫版には入っていませんが、ネット上で全作品を見ることができます。http://www.mejirushi.com/chitei/html/chitei.html
(登場人物)
野々村鷺舟:挿絵画家
富永丙三郎/富永綺峰:日本怪奇学会理事
水島鶏月:東京帝大教授
稲峰博士:
稲峰都美子
下村修吉
君島サト:17歳、女中
玉沢亘:陸軍大尉、雑貨屋兼魚屋の息子
龍の口→人穴→蝙蝠の巣→六道の辻(ヒカリゴケの鬼)→賽の河原(湧き水の天然池)→奈落の滝(奈落の底にはヒカリゴケ、温泉、アルネ・サクヌッセンムのルーン文字、間欠泉、二重螺旋のトンネル)→高天原(アイスランド湾→大銀杏の森→龍の森→、羊歯、鶏冠のある花魁蜥蜴→龍→海獣との戦い→首長竜→巨大蓮)→龍神の栖(→有尾人/恐竜人→猫オルガン)
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●「ノーチラス」(2000, ビデオ、なんと地球中心核までの掘削に挑む!)=ノーチラス号とネモ船長
●「ガイア−母なる地球−」(1990、EARTH, ハヤカワ文庫)