■はじめに
同じ1997年の9月末に完成した「みらい」が地球温暖化など気候変動の研究に重点を置いた研究船なのに対し、「かいれい」は地震研究など海溝域の研究に重点を置いた研究船として計画されました。
幸いにも同時期に両船を計画できたお陰で、効果的に機能を分担し、それぞれの特徴を伸ばすことが可能となりました。同時に、共通化できる設備については共通化してコストダウン及び標準化も図りました。
ハード面だけでなく、両船とも専門の観測技術員を置いて洋上での解析能力を充実させ、かつ、国内外の優秀な研究者を結集したフロンティア研究システムという開かれた流動研究員制度も発足させるなど、ソフト面でも最大限の研究成果を上げるべく共通の思想のもとに取り組んだという特徴があります。
原子力船「むつ」の改造という制約のあった「みらい」と比べ、「かいれい」は「しんかい6500」の支援母船である「よこすか」をタイプシップとしてこれまでの観測ノウハウを元に改良し、非常に洗練された完成度の高い船です。といっても、「よこすか」はJAMSTEC専用岸壁の水深が浅いせいでタライ船とならざるを得なかった欠点は引きずっていますが。
この「かいれい」は、就航して間もなく、880mの海底に53年間眠っていた学童疎開船「対馬丸」を調査1日目で発見し、わずか2日で14km四方の海域調査を完了したうえ、高度な画像処理を船上で行い、即インターネットホームページに公開するという調査能力及びデータ処理能力の高さを実証しました。
(2)観測支援設備
地震・火山・津波については、近年、国際的にも人口の都市への集中化傾向によってその被害規模が年々増大する傾向にあります。
地球表面は十枚以上のプレートに分割されていて、それぞれのプレートが「海嶺」で誕生・拡大し、「海溝」に沈み込んで消滅します。
日本は、太平洋プレート、フィリピンプレート、北米プレート、ユーラシアプレートという4つのプレートが複雑にぶつかり合うという地球上でも極めて特徴的な地理的環境に位置します。プレートの沈み込み運動によって日本列島周りの地殻に歪みが蓄えられ、それが解放されることによって大地震が発生します。この地震は大津波の原因となる場合もあります。
このように、巨大地震や津波の多くがプレートが海溝で沈み込む海域で発生しているにもかかわらず、その海域での観測は、陸域に比べて圧倒的に不足しています。
また、科学的には、海溝域がプレートの消滅、海水のマントルへの流入、島弧、付加体、大陸の形成などの壮大な地球の営みの場であることに興味が持たれています。
最近の研究の進展によって、巨大地震は沈み込むプレートと陸側の付加体との間の滑り面(デコルマン)が活断層となって発生すること、また、その活断層での間隙水流の存在が地震発生に大きな影響を果たしていることが「しんかい6500」による、海底冷水湧出現象の発見などによって分かってきました。さらに、各海域の間で地震発生順序について一定の秩序があることが分かってきたことから、滑り面でプレート同士が部分的に固着する力学的結合度の不均質性が存在すること、それが地震の強度や地震の発生順序に影響していることも推測されるようになってきました。
深海調査研究船「かいれい」はこうした知見をもとに日本周辺の地殻変形モデルを構築するため、それまで「しんかい6500」の救難システムとして行動が制約されていた1万m級無人探査機「かいこう」の稼働率を高め、さらに、マルチチャンネル反射法探査システムを搭載し、海底に配置する海底総合地震観測システムなどとも連携して詳細な調査を行うために開発されることとなりました。
1999年3月「かいれい」は、それまでの 120ch×1本(4000m),1000 ci×2×2本から、3D reflection seismic survay対応となり、156ch×1本、1500 ci×4×2本(パラベインで100m間隔、交互発信)に増強された。
⇒深海調査研究船「かいれい」の建造深海開発技術部