■1万m級無人探査機「かいこう」誕生物語

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2011年11月更新
 1万m級無人探査機「かいこう」(海溝)は、1995年3月末に完成しました。主契約者が三井造船(株)玉野艦船工場、ランチャー部が三菱重工業(株)、電気通信系が住友電気工業(株)、テザー・ケーブルが(株)フジクラです。
■開発経緯
 「かいこう」は、第一義的に「しんかい6500」の事前調査と救難を目的に開発されたものですが、その結果、「しんかい6500」の耐圧深度である11,000mまでの深海調査能力も有することとなりました。
 「かいこう」は「しんかい6500」の支援母船である「よこすか」を母船として、1995年3月24日にマリアナ海溝の最深部10,911mに到達しました。

 35年前(1960年)の米国の有人バチスカーフ「トリエステI号」では海底での移動はもとより写真撮影もできませんでしたが、「かいこう」は海底を動き周り、多毛類や端脚類のTV映像を光ファイバー経由で洋上に届け、マニピュレータで各種の操作を行い、さらに、事前に設置したマーカーを発見するというピンポイントの測位精度と航行管制が可能となりました。現在活躍中の無人機でこれまでの最深は米国イーストポート社(現在の社名はOceaneering International, Inc)のマゼラン825」(公称最大深度8,000m)でした。

 その後、「かいこう」は、底生有孔虫や絶対好圧微生物などの研究で大きな成果を上げていますが、一方、「しんかい6500」の救難については、「しんかい6500」自身が備える救難ブイを洋上船舶から降ろされたロープで絡め取る方式に目処が付きました。このため、「かいこう」を海溝域の探査をメインとする深海調査研究船「かいれい」に移設することによって、潜航機会を飛躍的に増やすこととなりました。

■主要な機能
 「かいこう」は海洋科学技術センターとしては3000m級無人探査機「ドルフィン3K」に次ぐ有索式無人機(ROV:Remotely Operated Vehcle)であり、電力と信号を光・電力複合ケーブル(「テザー(手綱)ケーブル」又は「アンビリカル(へその緒)ケーブル」と言う)で伝送します。
 「ドルフィン3K」はテザーケーブルとビークルで構成されますが、1万mの深海ではテザーケーブルに働く潮流力によってビークルの行動の自由が失われてしまうため、「かいこう」は一次ケーブルで吊り下げ/曳航されるランチャーから2次ケーブルを繰り出してビークルを発進させる中継機方式が採用されています。
 次のような技術が採用されています。

 a)軽量化対策

 軽量化のため、フレーム、耐圧容器、マニピュレータ等はチタン製とし、7台のスラスターの駆動源を均圧構造の油圧動力とするなど、耐圧容器は制御用電子機器のための最小限のものとしています。
 浮力材について、「トリエステ号」の時代は巨大なタンクにガソリン(比重0.75〜0.80)を充填して浮力材とした、いわゆる海中気球でした。近代潜水船はすべてガラス・マイクロバルーンを樹脂で固めたシンタクチックフォームが用いられています。

 b)テザーケーブル
 テザーケーブルは3本の電力線及び4本の光ファイバーとそれを取り巻くケブラー製強度メンバーから成ります。強度メンバーは、引っ張っても回転力が出ないように、1次ケーブル(12,000m)では内層と外層とで互いに逆方向のよりを入れた二重鎧装ケーブルとし、中性浮力の2次ケーブル(250m)は1重だが編み組み構造としています。
 また、1次/2次ケーブルとも均圧式としています。

=>藤倉電線水中挙動

 c)映像装置、マニピュレータ及び光通信
 ビークルには放送局級高品位カラーTVカメラ1台、操縦補助を兼ねるパノラマ・カラーTVカメラ3台、後方白黒TVカメラ1台の計5台が装備され、また、7自由度を持ちかつ位置フィードバック機能を持つ2本のマニピュレータによって高度な観察及び作業能力を実現しています。
 これらの大量のデータ伝送のため、1,260Mbpsという光通信システムを開発しており、これは日本のNTT光ケーブル網主要幹線の1.3Gbpsに匹敵する極めて高速のものです。

 d)曳航式探査機能
 6,500mを1.5ノットで曳航し、サイドスキャンソーナー、パラメトリックアレイ式サブボトムプロファイラー(地層探査装置)などによる調査が行えます。
 サイドスキャンソーナーは、幅約2度の扇形ビーム(周波数:左舷38kHz、右舷42kHz)を送信。分解能は数十cm、探知可能な物体の大きさは1m以上。
 また、サブボトムプロファイラーは、指向性の鋭い多数の高周波音源をわずかに周波数を変えて混合配置し、うなりを利用することによって、小型で強い指向性の低周波音源を実現しています。
■最初のトライアルでの教訓
 「かいこう」の開発は全て順調だったわけではなく、最初のマリアナ海溝へのチャレンジでは、1万m水深での超高圧によって予想もしない問題にぶつかりました。
 均圧式であるはずの2次ケーブルは、超高圧下で均圧機構(海水が被覆を透過する)が予想通りに働かずにケブラー繊維が断線。光ファイバーが微細に屈曲して光通信途絶を招きました。が、その後、油を封入する方式に改良されました。
 浮力体についても相互の接着部分に繰り返し加圧による亀裂発生があったため、繰り返し加圧に強い接着法が開発されました。
 このほか、固いはずのチタンフレームも潜航のたびに圧縮・膨張が繰り返されて、ペイントが剥がれてしまいます。
■これまでの主な成果

(1)超深海の生物・微生物研究

 「かいこう」は、平成8年3月の慣熟訓練潜航で水深10,897〜10,898mの海底(圧力が約千気圧、水温が約2度)から底質試料を採取し、以下の研究成果を得ています。
=>小島助教授のページ「かいれい/かいこう」日本海溝調査

 a)超深海性底生有孔虫の確認
 これまでの発見より3,500m深い水深10,897mで生息する6種類の底生有孔虫を確認した。これらの有孔虫は過去の地殻変動や古環境、古水深などを復元する時の指標としても用いられる重要なもの。

 b)マリアナ海溝の微生物多様性の発見
 超高圧、低温環境での微生物の存在量が地上の約1万分の1であること、ほとんどは冬眠状態であるが、わずかに約1000気圧でも生育できる種も存在すること、海溝底から地球上の様々な微生物が分離されたことから太古の微生物などが眠っている可能性があることなどが明らかとなった。種類が確認された微生物は180種にのぼった。
 このニュースは国内各紙をはじめロンドン・タイムズの一面を飾った。

 2000年、インド洋で世界初の熱水噴出発見
=>蒲生俊敬のホームページインド洋初の海底温泉発見の瞬間

(2)対馬丸とH-IIロケット主エンジンの発見
1999年、H-IIロケット8号機のエンジン部品の発見
2001年、オアフ島沖に沈没した「えひめ丸」の遺留品回収

■「かいこう」ビークル亡失
 2003/5/29、室戸岬沖の東南約130kmの南海トラフ、水深4675mで作業後にランチャー(親機)とビークル(子機)を結ぶ2次ケーブル切断。浮上後に行方不明となった。建造以来296回目の潜航だった。
 2001年にJR号が掘削した孔HOLE 808 Iに同船が設置したA-CORK(Advanced Circulation Obviation Retrofit Kit:孔内長期水理学的モニタリング装置)の長期観測データ(圧力など)を水中着脱コネクタで回収成功後に2次ケーブル(全長250m、外径29.5mm)が破断。ビークルは自然浮上したとみられるものの、おりしも台風接近によって母船「かいれい」が現場海域を離れることを余儀なくされ、海面近くまで浮上しているとみられるビークルを発見することができず、亡失となった。

 その後、細径光ファイバー式無人探査機「UROV7K」を改造し、「かいこう」のランチャーをそのまま利用して「かいこう7000」とした。

さらに2006年からはマニピュレータの増強、推進力の増強などを行った「かいこう7000-U」となった。

2011年10月にはフルハイビジョンカメラ2台が機体の左右日並列して設置された。


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