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「どうして人間の道具はぼくらのとちがうんだろう・・?」
「さあ、よくわからないが、自然にはない力を使っているようだ
ずっと南にクジラがたくさん住んでいる氷の海があるんだが──」
「あ、それ 南氷洋っていうんでしょ?」
「そうそう、よく知っているね
ぼくらはそこで長い間平和にすごしてきたんだけど
ある年から突然大きな船がやってきて
えたいの知れない方法でぼくらクジラをさらっていくようになった
やがて、ぼくら“歌い手”の一族やほかの大きなクジラたちは
仲間をおおぜい殺されて ゆたかな氷の海から姿を消していった
いまじゃ“いちばんのチビですばしこいクジラ”が
みんなにかわって海のおつとめをはたすのにてんてこまいさ
というのも、皮肉なことにかれらは体が小さくて肉が少なかったから
大きいクジラがすっかりいなくなるまで見向きもされなかったんだ
チビといったって ぼくよりふたまわりほど小さいだけなんだけどね
でも、そのチビクジラがいま人間にねらわれている
かれらの身にもしものことがあったら クジラの楽園もおしまいだよ
そこにはペンギンやオットセイやほかにもいろんな生きものがいて
海の神さまがそれぞれの役目をわりふっているから
クジラの役がだれもいなくなっちゃうと 神さまもきっと大弱りだろう」
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