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クジラさんの声はだいぶ弱まってきたようです
「ああ、もうそろそろお別れになりそうだ
これが運命ならしかたがない、クジラの神さまが決めたことだからね
こんな網にからまって死ぬのはちょっぴりしゃくだけど・・」
ネコくんはそれを聞いて悲しくなってきました
ここでクジラさんが死んだら
ネコくんも海のまん中でおぼれ死んでしまうでしょう
ネコくんの目から大粒の涙があふれだし、ほおヒゲの間をポロポロと伝いました
「おやおや、そんなに泣いたら体から水分がなくなって日干しになってしまうよ」
ネコくんは少し笑顔をとりもどして聞きました
「クジラさんは悲しいときには泣かないの?」
「ぼくらは水の中に住んでいるから涙は出ないね」
「そうか」
「まあ、心配しなさんな
ぼくが岸まで連れていってあげるよ」
そういうと、クジラさんは最後の力をふりしぼって尾ビレをぐんとひとうちしました
ネコくんはふり落とされないようにコブにしっかりしがみつきました
まわりの水がうずをまいて、白い泡をのみこんでいきます
クジラさんはかすかに見える陸地の方角へ体の向きを変えました
「さあ、あとは潮の流れにまかせておけば、波が岸まで運んでくれるよ」
あたりはもうまっ暗で、海と空とのさかいめもわからないほどです
ただ前方にチラチラと見える町の灯りが、行く先をしっかりとしめしていました
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