(初出:2008/1/18)
食品偽装、再生紙偽装、そして──
ここで、また別の"環境スキャンダル"について取り上げたいと思います。今回の捕鯨ニッポンVS活動家と同じタイミングで報じられた、製紙メーカー各社による再生紙偽装問題──。年賀状からノートに至る製品の広範さと、実際の配合率と詐称した数字とのあまりに大きな開きは、問題がいかに深刻かを伝えています。「市場の求める品質を達成できないから」という言い訳は、「嘘を吐く」理由としてまったく合理性を欠いたコジツケ以外の何物でもありません。ついでにいえば、「日本の技術力/製品の品質は、実は低いんです」と世界に向かって白状しているかの如き"釈明"には、「うわっ、それでいいんだ・・・」と開いた口がふさがりませんでした。消費者に責任を転嫁している点でも、言語道断という他ありません。
この問題が非常に深刻だというのは、日本の企業と消費者の"体質"に密接に関わることだからです。謝罪する企業トップを見て、昨年上から下まで北から南まで立て続けに起こった"食品偽装"そっくりだという感想を皆さんも抱いたことでしょう。この2つの業界の偽装発覚は、消費者の目が届かず、消費者に代わって行政などの機関が監視する仕組みや違反した際の相応のペナルティがないならば、こうした問題は必ず起こり得るのだということを、私たちに如実に示したといえます。経営者と投資家が企業の倫理的責任について厳しく自覚していれば、あるいは起こらないのでしょうが、残念ながら現在の資本主義社会はそこまで成熟してはいないようです。
もう一つは、偽装を許してしまう消費者の側の問題です。今回も「日本人の消費者意識の高さ」を言い訳にしていました。環境負荷軽減の努力をしないための"いい口実"ですが、一方でこれはとんでもない勘違いなのではないかとも筆者は感じました。そこまでなめられる時点で、意識の高い消費者などとはとてもいえないでしょう。利潤を追求する企業の行動原理を鑑みれば、こうした偽装の問題は欧米でも同様に発生し得るはずですが、ここまでひどくならないのは、コスト・ベネフィットの観点だけでも、消費者を裏切ることのデメリットの高さが日本より一段高いハードルになっているからではないでしょうか。
15分たって冷めたハンバーガーを始め、国の定めた消費/賞味期限前でも「消費者が求めるから」と別個の"販売期限"を設けて(国の基準が非科学的で問題あるならはっきりそういえばいいのに・・)1店舗当たり1日10tを越える大量の食料を捨てるファーストフード・コンビニ業界。梱包の段ボールが破れたというだけで、たとえ賞味期限が1年以上先でも廃棄される大量の食品。豊作になれば「市価が下がる」とブルドーザーで潰される農作物。日本で年間に廃棄される食料は、環境省の大雑把な統計で企業・家庭排出分を合わせ約2300万トン、世界の飢餓地域への援助食糧の総計をゆうに2倍以上上回り、調査捕鯨で提供される鯨肉の比ではありません(こちらも参照)。過剰包装の嵐。紙から食品から合成洗剤に至るまでまで跋扈する白色信仰。そして、スーパーなどで売り場のスペースの半分を占め続ける100%純正パルプのトイレットペーパー──。これらは果たして、日本人の消費者意識の高さの表れなんでしょうか? それって何の根拠もないただの幼稚な潔癖症でしょ??? 欧米では普及している大手小売を通じたペットボトルのリサイクルシステムが、「なんかイヤ」という理由だけで、というより「消費者がそう言うから・・」という理由で一向に普及せず、リサイクルの体をなしていないのも同じ。昨今欧州などではフードマイル(フード・マイレージ)の概念が定着し、消費者が意識して環境負荷の低い食料・製品を買い求め、メーカー・販売店側もそれに応じて表示するようになりましたが、そっちのほうがよっぽど"高い消費者意識"じゃないの(--;; 自給率4割を切り世界中の食料を輸入する日本で、食料の輸送・冷蔵冷凍等に関連して排出されるCO2の量が、先進国の中でもべらぼうに高いのは有名な話です。莫大な電力のかかる巨大な冷凍庫を持つ鋼鉄の大型母船を、重油を山ほど燃やして往復2万キロ以上航行させ、さらに漁期の間中高速艇を何隻もガンガン走らせ、はるか南極の海から運ばれる鯨肉(しかもそれを何年も冷凍庫で保存する始末・・)こそは、まさしく世界最悪のCO2排出食といえます(温暖化と捕鯨の関係についてはこちら)。日本らしいといえばそれまでかもしれませんが……。メディアの宣伝につられてそんな恐ろしく環境にヨクナイ代物を買ってしまう日本の消費者の、一体どこが賢いんでしょうか???
最後に、企業による偽装の問題に直接関わる捕鯨業者の体質にも触れておきたいと思います。かつて商業捕鯨時代にも、日本の捕鯨会社は監視員とつるんで悪質な規制違反を頻繁に繰り返していたことが多くの証言からわかっています(こちら参照)。そういえば、鯨肉の重金属汚染発覚時の釈明も、《隠す→筋違いな弁明をして開き直る》というパターンを見事に踏襲していましたね(こちら参照)。密輸・密漁鯨肉の問題も残っています。これはイルカや捕獲禁止海域・対象種の鯨肉を使った文字通りの偽装そのものです。上記の偽装・隠蔽体質が明らかにしたように、ただでさえ企業の意識も消費者の意識もともに低い日本に、南極の自然に負荷を与えずに捕鯨を行うことなどできるはずがありません。それはとりもなおさず、商業捕鯨再開を前提にしている時点で、科学以前の問題として調査捕鯨に正当性がないということです。これまで述べてきたとおり、調査捕鯨自体、科学の名を借りた商業捕鯨の偽装に他なりませんが……。
悲しいことに、政府・業界のプロパガンダのせいで、日本の鯨肉の消費者は、再生紙の配合率やフードマイルに多少の関心を持ち始めた一般の消費者と異なり、南極の野生動物に与える影響をまったく危惧しなくなってしまいました。何しろ、「日本は乱獲をしたことがない」だの「シロナガスを食わせろ」だのと平然と言ってのける恥ずかしい文化人さえいるくらいなのです。いまは豪州政府が監視船を派遣していますが、日本政府も、出資する水産会社・販売店も、ごく一部の日本人からなる市場も、きちんと機能する安全装置の役割を果たすことはまったく期待できないということです。
筆者は断言します。この国の体質が変わらないまま、日本の商業捕鯨がもし再開したならば、"捕鯨偽装"は間違いなく起こります──。