(初出:2008/2/4)
(更新:2009/4/27)

地球温暖化とクジラ
──最悪のCO2排出食とその政治・文化面にわたる数々の弊害──

※ 最新記事を市民メディア・JanJanNews上に掲載していただきました。
遠洋調査捕鯨は地球にやさしくない・日新丸船団、CO2を4万tは排出か?
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主な更新情報:
−調査捕鯨船団のCO2排出量を旧記事(このページ)ではおおよそ4千トンと見積もっていましたが、1ケタUP・・・。これは、以前ごく大雑把に推計するしかなかった燃料消費量に関する情報を得ることができたためです。おかげで、国交省の輸送重量距離をもとにした排出量の目安はかなりいい加減だということがわかりました(--;
−環境省の「特定排出者コード」は、対象外のところもすべて含めた事実上ただの"事業所コード"であることが判明・・。今はHP上で注意書が出ています(昨年末筆者がチェックしたときはなかったハズ(--;) 別途紐付けされた"排出者コード"をちゃんと設けるべきですね。。
−ノルウェーのハイノースアライアンスが出した数字(小型沿岸捕鯨の燃料消費分のみ・・)との比較データも掲載。
−水産庁の天下り団体水産総合研究センターが母船式商業捕鯨の排出量を極小に見積もり「捕鯨はエコ」と主張(掲載は産経新聞)。筆者の反論はこちら↓
「捕鯨がエコ」だなんて冗談キツイ! 大法螺ばっかり吹いている水産庁の天下り団体と産経新聞
−WDCSとWWFの総説をもとに、marburg_aromatics_chemさんがクジラと温暖化の影響について要点をわかりやすく解説してくれています。↓
地球温暖化とクジラ類との関係についての総説を読む

 この2つの環境上のトピックは、(捕鯨問題を環境問題の一つとして認識することのできない一部の日本人にとっては特に・・)一見無関係なことのように思えるかもしれません。しかし、いま物議をかもしている地球温暖化問題とクジラとは、きわめて密接な関係にあるのです。

 まず、捕鯨擁護論者がことあるごとに主張する「ウシの方が環境に悪い」という説について一言。これはいわゆる"迂回生産"と呼ばれるカラクリで、畜産ではカロリーベースで数倍から多い場合には十数倍もの飼料作物を必要とすることを指しています。飢餓問題を焦点に食肉の問題を正面から捉えようという菜食主義者(残念ながら日本では、欧米とはベジタリアンの層の厚さもバイタリティも比較にならないほどお粗末ですが・・)の主張であれば、まだしも説得力はあるでしょう。しかし、先進国の中でも食肉需要が伸び続け、小児の肥満や成人病が多発しているにもかかわらず、世界でも類を見ない輸入大国にしてなおかつ食糧廃棄大国という恥ずかしい食糧事情を抱えるそんな日本人が、具体的に環境負荷を減らす策を一切講じることなく「だったらクジラも殺させろ」と唱えても、違和感バリバリでシラケるばかりです・・(こちらこちらも参照)。
 実を言うと、迂回生産の仕組みは、二百海里時代以降日本の水産業で幅を利かせるようになった養殖漁業にも、そっくりそのまま当てはまります。小麦→ウシとまったく同様に、イワシ→ブリの場合は直接イワシを食用にした場合に比べて14倍もエネルギーコストがかかります。マグロの畜養ともなれば、その非効率性ははるかに高くなるでしょう。資源管理型漁業といえば聞こえはいいですが、排泄物等による富栄養化・処理コストから抗生物質使用に至るまで、一次的に影響を及ぼすのが海か陸かというだけで、環境にもたらす負荷の点では陸上の畜産と本質的な差はないのです。環境問題に関して客観的な判断が可能でさえあれば、見過ごすはずもないのですが……。
 養殖だけではありません。遠洋漁業は当然のことながら大量の石油を消費して漁船を走らせます。遠洋マグロ漁船1隻が1年の航行で消費する重油は千キロリットルにもなります。いま原油高騰によって漁業者が大打撃を受けていますが、それだけ多く石油に依存しているのもまた事実です。
 日本の水産業全体でみれば、漁獲物1キロの生産に対して約0.5リットルの石油を消費しており、生産高でみれば他産業と比較して4、5倍ものエネルギーがかかっているといわれています。生産者価格あたりの漁業のエネルギー消費量(環境負荷原単位)は約100GJ/百万円、CO2排出量換算でも2トン−CO2/百万円で、他の一次産業のほぼ4倍と突出しており、鉱業よりも高くなっています。水産大国から水産物輸入大国へ変質した現在、さらに輸送や冷蔵冷凍など、水産物の消費そのものにかかるCO2コストが加わってきます。
 農産でも、畜産でも、水産でも、有機や自然農法、沿岸定置網等、比較的環境にやさしいものもあれば、温室・農薬・遺伝子組み替え、地球の裏側から航空輸送される野菜、森林乱伐やメタン排出につながる大規模牧畜、マングローブを破壊する養殖や捕鯨に代表される大がかりな遠洋漁業など、「地球にヤサシクナイ」ものもあるわけです。それは当たり前の話。単純素朴に「水産業=環境に"善"」とみなしてそこで思考停止してしまっては、持続可能な一次産業の構築などできるはずがありません。

 ではここで、捕鯨活動そのものが排出する二酸化炭素の量は一体どの程度になるのか、検証してみることにしましょう。ここで取り上げるのは大規模遠洋捕鯨、今まさに行われている南極海での調査捕鯨の活動及びその産物としての鯨肉が食卓に運ばれるまでにかかる環境コストとしてのCO2排出量です。母船日新丸の所有者である共同船舶は、環境省が特定排出者として算定・報告を義務付けているCO2年間排出量3000トン以上の事業所(c/n987132613)に認定されています。これだけでも、捕鯨産業がCO2の大口排出者であることを歴然と証明しています。資料は提出しているはずですが、まだ開示請求ができないため、大雑把ながらこっちで勝手に試算してみたいと思います。
 まず、船舶の二酸化炭素排出量を測るには主に3つの方法があります。まず燃料法、これは燃料の重油の消費量に単位発熱量とCO2に換算するための排出係数をかけるだけです。燃費法は、消費量の代わりに航行距離を燃費で割った値を用いる方法。トンキロ法は、輸送距離と積載貨物の重量当たりに直した値(グラム/トンキロやグラム/トンマイルといった単位)をもって同様に弾き出します。このとき外航船舶は積載率も考慮しなくてはなりません。最も手っ取り早くて正確なのは燃料法ということになります。
 船舶からはCO2ばかりでなく、大気汚染物質でもあるSOxとNOxなど、他の温室効果ガスも排出されます。C重油を用いる大型船舶の排気はとくにSOxの割合が多くなります。ボイラーの燃焼ではメタンも排出されます。代替フロンHFCもまた船舶と関連します(後述)。
 世界全体のCO2排出量のうち船舶分はおよそ3〜4%を占め、外航船だけで4億トンに上ります。輸送機関の中でいえば、船舶はトラックの1/4、飛行機の1/30と、エネルギー消費効率自体は鉄道に次いで低くなっています。もっとも、航行距離に比例して燃料消費は増えますから、はるばる地球の裏側まで往復するような長距離になれば当然話は別になるわけです・・。
 調査捕鯨船団は、母船日新丸(総トン数約8000トン)と調査船(いわゆるキャッチャーボート)5隻(700トン余りの採集船3隻と、300トン及び800トンの目視専門船2席)、そして公式発表では含まれていない燃料補給船兼鯨肉中積船のオリエンタル・ブルーバード号で構成されています。このオリエンタル・ブルーバード号はパナマ船籍(もともと日本製の便宜置籍船ですが・・)の古い小型タンカー(といっても総トン数は約8700トンで日新丸を上回る)で、船団に給油すると同時に捕獲したクジラの半数近くに当たる1500トン分の鯨肉を転載し、日本まで持ち帰る役目を担っています。これらの船が、一連の活動で消費するエネルギー量をもとにCO2排出量を算出することができます。
 各船の燃料消費量さえわかっていれば一発で数字が出るのですが、当事者には伝票などで一目でわかる燃料消費量を、他のデータをもとに推測するとなると一筋縄ではいきません・・。船体の各寸法や容積、航速などの諸元データをもとに計算するソフトもあるようですが、捕鯨船団の場合、通常の船舶と異なりいろいろ特殊な事情があります。
 考慮すべきなのは、まず第一に、各船が日本から南極海までを往復する際に消費する燃料。ただ、船舶の燃料消費は、積載燃料自体が減ることで燃費も変化するため計算が複雑になるうえ、空荷(バラスト)航行の往路と鯨肉を積み込んだ後の積荷航行の復路では、載貨重量が大きく変わってきます。タンカーのケースでは、満載時の燃料消費は空荷時の2倍になります。大型船舶は、航行時以外の停泊時にも揚げ荷の動力などのために燃料を消費します。往復路だけでなく、期間中、母船がキャッチャーが戻るのを待って手持ち無沙汰にウロウロしている間も、燃料は燃やされ続けるわけです。また、タンカーの事例では、建造年が古いものほど燃費は悪く(70年代後半製のものは90年代後半製のものに比べ2倍以上)、建造されてからの年数が増えるにつれさらに効率が落ちていきます。
 次に、捕鯨船の探鯨航行(科学調査の建前上は、海区内をビリヤード式にランダム航行することになってますが・・)及び追鯨にあたって消費する燃料。JAPRAUの探鯨距離は1期当たり総計で3万キロに及びます。昨年度は火災事故発生により2万キロ止まりでしたが)。捕獲時の高速追尾や、捕殺後曳航する際には燃料消費が増えます。
 加えて、捕鯨母船の場合は、冷凍室の莫大な電力消費がこれに加わります。船舶上では主機関と同様、重油を燃やす自家発電機により電力が供給されます。普通の船舶では航行用のエネルギーの約1割程度なのに対し、捕鯨母船はこの冷凍設備のためにハンパでない電力を消費し、燃料消費量にその分がさらに上乗せされるわけです。細かく見ればさらに、解体時のクレーンやスリップウェーの稼働、洗浄用のポンプ駆動など、発電機や補助ボイラーによる燃料消費オプションがつきます。要するに、一般の漁船や、他の食糧のコンテナ輸送と同じ具合にはいかないのです。
 もう一つ忘れてはならないのが、冷凍・空調設備に冷媒として使用されるHFCです。代替フロンはオゾン層を破壊しない代わりに、種類によってはCO2の1万倍にもなる強力な温室効果を発揮するものもあります。これらHFCは、設備への封入時、メンテナンスや故障時の漏洩により大気中へ排出されます。測定が容易でないこともあり、環境庁の報告マニュアルでは事実上無視に近い扱いですが、船舶上の冷凍設備は陸上施設に比べても管理が甘く、リーク量が多いのではないかと疑われています。冷凍設備を備える母船は87年、補給船は78年建造の老朽船であることは、エネルギー効率の面も含め念頭に置く必要があります。
 そして、捕鯨に特有のものとして、標本にも市場用に出すこともしない残った解体鯨の焼却・廃棄にかかるCO2排出が挙げられます。本来なら、陸上の畜産業と同じように計上しなければならず、畜産のそれを上回ることは目に見えていますが、ここでは省略します。。
 簡単に入手できるデータがなかなかないため、ひとまず単純に船舶による輸送コストから算出してみましょう。
 国土交通省の発表データによれば、船舶全般の輸送トンキロ当たり二酸化炭素排出量は39グラム−CO2/トンキロ。実際には船舶のタイプにより大きなバラツキがあり、大型の原油タンカーに比べるとコンテナ船は2倍、小型の内航船舶はさらにその倍以上排出量が多いとみられます。これは主にスケールメリットと積載率の差から来るものです。日新丸は事実上小型のタンカーといっていい大型船舶ですが、積載率は1万トン超級の原油タンカーに比べれば大幅に下回り、建造後20年経ている上に、冷凍その他設備の電力消費など上記のプラス分が発生しますから、平均値で問題ないでしょう。大雑把に日本−南極海間の航行距離を1万キロ、往路と漁期中の航行に消費するエネルギーをそれぞれ復路の半分とし、往復合わせて2万キロとすれば、単純計算で0.78トン−CO2/トンとなります。さらに、1期の捕獲調査で獲れる鯨肉を3500トンとすれば、約2700トン(CO2換算)という数字が出てきます。総トン数55,000トンの原油タンカーの年間CO2排出量が約38,000トンというデータがありますので、ごく粗雑な計算ではありますが、大きく離れてはいないでしょう。これは純粋に輸送にかかる分だけの排出量ということになります。これだけなら特定排出者の指定をスレスレで免れそうですが、消費燃料/CO2排出量には、各調査船の探鯨・往復(3万キロ+2万キロ×5でしめて13万キロ! 地球3周分以上。。母船と補給船の分を合わせればなんと地球4周分!!)の航行にかかる分と、補給船が船団に給油する分の貨油積載量に対する輸送コストも含まれてきますから、3000トンどころか4000トンは軽く越えると見ていいでしょう。共同船舶/日新丸はそのうえ北太平洋での調査捕鯨分も請け負っていますし・・。
 ここで仮にCO2排出量を4000トンとし、燃料消費量として逆算してみると、船団が1期当たり消費する重油はおおよそ1300トン余りということになります。この半分を補給船の給油に充てるとすれば(オリエンタル・シーバードは鯨肉の転載を主目的に調達されたんでしょうが・・)、往復の積荷のバランスをみてもそこそこ辻褄は合っているでしょう。
 4000トンのCO2を体積にすると、東京ドームおよそ1.6杯分。これは、日本人が南極のクジラまで貪りたいといわない限り決して発生しない二酸化炭素の量です。言い換えれば、地球と人類と鯨類のために簡単に削減してしまえるCO2でもあります。
 さて、「鯨肉消費にかかるCO2コスト」という観点では、これだけでは不十分です。国内で小売店や料理店、ネット販売で消費者に届けられる際の流通運送にかかる二酸化炭素排出量も考慮しなければなりません。水揚げされた後は、他の輸入食糧と同じように、トラックでCO2を撒き散らしながら全国に運ばれるわけです。抱える問題は多くの食品と一緒ですが、少なくとも地場消費の低さにはかないません。もう一つ見過ごせないのは、在庫として保管する際に消費する冷凍設備にかかる電力及び冷媒のHFC使用です。現在鯨肉の在庫は年を追うごとに膨れ上がっていますが、それはとりもなおさず、倉庫に積んだまま氷漬けにしておくため"だけ"に、丸々一年中電気を湯水のごとく使い続けていることを意味します。同じ氷漬けでも、南極の海に泳がしておきさえすれば、そんな電気代もかからないのに・・。北太平洋及び沿岸で捕獲された分を合わせ、総在庫(月間平均)の維持にかかる環境負荷コストが明らかになれば、冷凍庫か南極にいるかと思うほど世界の市民を震え上がらせるとんでもない数字が飛び出すことでしょう。
 まだまだあります。それは投下設備のLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)。具体的には、捕鯨母船を始めとする設備の建設、鉄鋼など原材料の採掘・輸送・精製にかかるトータルの環境負荷を償却期間(日新丸でいえばせいぜい3、40年というところか)と単位重量で割ったものがプラスされることになります。この計算も残念ながら筆者の手には負えませんが、他の一次産業と比べてケタ違いの量になることは確実です。
 こうした一連の数字のトータルを、アメリカやオーストラリアの畜産業からの排出量と比較してみると面白いのでしょうが、手元にデータがなくあさっている余裕もありませんので、興味ある捕鯨擁護派の皆さんに、ぜひとも詳細な比較考証を行ってもらいたいと思います(笑)。一つお断りしておきますが、筆者はこれらの企業規模の工場畜産商業捕鯨に次いで環境に悪いと考えており、捕鯨賛成の口実にするだけの諸兄と異なり生活の中で排出量を減らすべく具体的行動を実践しております。まあその気になれば、ゼロにすることもそう難しくはないんですけど・・。

 以上の検証結果をもとに、筆者としては、とりわけ南極まで出向く母船式捕鯨により供給される鯨肉こそは世界最悪のCO2排出食であると結論し、人々に警鐘を鳴らしておきたいと思います──。

 ところで、捕鯨業界サイドでも、御用団体の研究者などが捕鯨にかかるエネルギーコストの試算をしているようです。

http://luna.pos.to/whale/jpn_renew.html
http://luna.pos.to/whale/jpn_blich.html

 ところが・・・・よく見るとこれ、近海でキャッチャーのみを使ってゴンドウなどを捕獲し基地に持ち帰る小型沿岸捕鯨だけの話なんですねぇ〜〜・・・・。数字自体も、実際に消費されるエネルギー量をどれほど綿密に検証したんだか甚だ疑わしいものですが・・。
 こんなあまりにも片手落ちの資料をもとに、日本国内の捕鯨シンパは「"捕鯨"は他の漁業に比べても環境にいい」なんて強引・拙速な主張を展開していますが、これはオマヌケなミスなのでしょうか? それとも、故意に伏せたのでしょうか? 筆者としては、市民の目をごまかすための"偽装工作"でないことを祈るばかりです。ていうか、この重大な"欠落"を補うべく、母船式捕鯨のエネルギー効率の実測値を(比較対照と合わせた原データも含め)ぜひとも発表して欲しいものですニャ〜。カガクが大好きな当事者には簡単に計算できるハズですから──。
 その他にも、擁護派が掲げるのは「捕鯨は殺虫剤を使わないから環境にいいんだ」といった、あまりにもお粗末で幼稚な発想に基づくものばかり・・。カガクカガクと日頃うるさい人たちが、こんな非科学的な主張を一言もツッコまずに放置していることには驚きを覚えます(殺虫剤とクジラの関係はこちら参照)。

 と、ここまで捕鯨と鯨肉食が直接地球温暖化を引き起こす大きな排出源の一つとなっている事実を確認してきたわけですが、地球温暖化と捕鯨との関わりについて、もう少し深く掘り下げてみることにしましょう。
 地球温暖化とクジラとの関連は、以下の4つの側面から捉えることができます。

1.地球温暖化が鯨類ないし南極/海洋の生態系に与える悪影響と、そこに商業捕獲という直接的なインパクトが加わることの相乗効果

2.地球温暖化に世界でも例を見ない圧倒的な寄与をしている食を中心とした日本人の異常なライフスタイルと、業界・メディアによる捕鯨食ブンカ広報活動がもたらした食文化「破壊」との相関性

3.地球温暖化問題に対する日本の政治的スタンスと、捕鯨問題に対するそれの乖離と相似

4.3に絡んでやや前向きの話を後述したいと思います・・

 1.については、捕鯨関係者は「何を大げさな・・」と取り合わないことでしょう。しかし、野生生物の絶滅/生態系の撹乱が生じるケースのほとんどが、複数の人為的要因が重ね合わされた結果により引き起こされたものに他ならないのです。乱獲(それも商業規模の)は鳥獣、魚類など多くの野生動物の絶滅をもたらす要因として決して無視し得ないものですが、たとえ狩猟・漁業等の捕獲圧のみならば、対象動物種の生息数・繁殖率からみて理論上は耐え得ると考えられる場合でも、そこに森林伐採による生息地の破壊といった他の要因が加わることで、絶滅は容易に引き起こされ得ます。対象の生物とそれを取り巻く自然にどのような変化が起きているか、そうしたことにまったく目を向けようとせず、さらに商業捕獲という直接的なインパクトまで加重しようとする──生態系の破壊に対する基本的な認識がまったく欠如していることこそ大きな問題といえましょう。
 地球温暖化が具体的にクジラたちに対して及ぼす影響についてはこちら

 2.上記や他項でもさんざん繰り返していますが、日本の政府、マスコミは地産地消の対極にある鯨肉食を食ブンカの"鏡"であるかのように祀りあげてしまいました。今日、この国では、文化としての食がズタズタに破壊され、食品偽装はとどまるところを知らず、最悪のフードマイル(フードマイレージ)と大量廃棄はアメリカを含めどこの先進国も遠く及ばぬありさま。世界で一番モッタイナイ限りを尽くしているくせに、「モッタイナイ」というコトバを広めようなどと臆面もなく唱えている様は、あまりに滑稽で見ていて悲しくなるほどです・・。それはまた、日本の捕鯨産業が鯨肉を大量に投棄していた事実を知らぬまま(こちら参照)、「余すことなく利用してきた」などという業界の大ボラ宣伝だけを人々が鵜呑みにしてしまっている姿と見事に重ね合わさります。これでは"美しい"どころか"ミットモナイ"国ニッポンですね。。ここまで日本における食の"迷走"ぶりが露呈するに至りながら、まるで他人事のように見ぬふりをして未だなお"ブンカブンカ"と叫び続けている人たちこそ、むしろ国民に食文化の本質を見失わせた張本人なのではないでしょうか? 捕鯨業界のPR活動が犯した悪影響とその罪はあまりにも大きいのです。

 3.地球温暖化問題に関しては、未だに陰謀説といった眉唾物の議論がまかり通っています。その内容は実際のところ昔っから変わってないんですが……。よく見ると、その構図はまさに捕鯨問題そっくり。その証拠に、巷で流布しているこの手の言説は必ずといっていいほど反捕鯨を引き合いに出しています。もちろん、予防原理と科学の限界・恣意性は、捕鯨問題におけるそれとそっくり符合するわけですが。
 まず「"温室効果ガス"が"温室効果"を起こす」のは科学的に明白な事実ですが、地球という惑星においてそれがどのような形で推移するかを予測するのは困難です。というより、むしろ天気予報と同じく完璧な予測などありえないというほうが正解でしょう。地球科学的・天文学的な理由、すなわちニンゲンの産業活動と無関係の原因に起因するという説もあります。46億年という長い歴史の中で、銀河系の渦状腕につっこんだり、自転軸が傾いたり、偏心率が変わったり、諸々の理由でこの惑星の平均気温が変動してきたのは間違いありません(ただし、現在の気温上昇に関わっているという説にはたいした証拠がありません)。それでも、最近の文明由来の温室効果ガス排出による気温上昇のペースは、そうした地史的な原因に基づく気温の変化よりはるかに急速なのです。結論からいえば、もし仮に純粋な自然要因に基づく分もあった場合、人間の文明活動に伴う温室効果ガスの排出をさらに厳しく抑制しない限り、「人類の将来はない」ということに他ならず、対策をとらない口実にするのはまったく論理性を欠きます。「どうせ手遅れなんだから好き放題浪費しようぜ」というのが趣旨であればいざ知らず……。不確実性と検証の困難さという点では、捕鯨がクジラと海洋生態系に及ぼす影響の不確実性を上回ってはいるでしょう。それでも、計り知れないその被害を考慮するなら、世界各国が協力して即座に大胆な対策を打ち出す以外にありません。
 さて、国を挙げて温暖化への対処を掲げている点では、捕鯨における態度とは正反対に見える日本政府。しかし、"総論としての建前"に対し、その実態のほうはどうでしょうか?
 せっかく自国の都市の名を議定書に被せてもらいながら、約束した対90年排出量6.5%削減を実現できないどころか逆に現状で8%も増加してしまったニッポンは、緊密な同盟国として米国を引き込むどころか、歩調を合わせてCO2削減の具体的な数値目標の削除に賛同するなど、ヘラヘラ追従するばかり・・。地球温暖化対策に最も後ろ向きのベクトルを示した国として、なんとも不名誉な"化石賞"を受賞する羽目に。政権交代によりIPCCの舞台に加わったオーストラリア──反捕鯨の急先鋒でもある──ときわめて対照的な配役を演じました。ダボス会議でも、当り障りのない提言だったせいで存在感を示せなかったようです。「省エネ効率を日本の水準に合わせましょう」というのは、「自国だけ何もしなくていい」という何とも虫のいい話に聞こえます。日本の省エネ効率は輸出産業の先行戦略がたまたま当たったもので、環境への配慮を率先した結果ではなく、まだまだ改善の余地も残されています。そのうえ、たとえ効率を上げたところで化石燃料の総消費量を減らさない限り、大気中のCO2濃度は増え続け、温暖化はどんどん進行していくのですから、「効率さえ上げればいい」という主張はまさに"非科学的"です。排出権取引や環境税などの具体的な施策に対し、日本の経済界はデメリットを強調するばかりで及び腰ですが、多少の問題があるのは百も承知の上でのことで、「待ったなし」の状況を理解した上での異論とはとても思えない、単なる揚足とりとしか映りません。"地球の揚足"をとってどうするというのでしょうか・・? 政府は新年度予算で総額約5千億円の対策費を計上しました。しかし、原子力交付金が含まれているうえに、このうち1千億円は相も変らぬ森林整備費(こちら参照)。各省とも例年のごとく旧来事業の名目替えのオンパレード・・。官民ともに意識の低さばかりが目立つ格好に。
 こうしてみると、中味のほうは「地球温暖化を食い止める」ことを渋ってばかりで、むしろ捕鯨と同じく地球温暖化についても"推進の旗振り役"(対策という意味ではブレーキ役)に成り果ててしまった感があります。同じ捕鯨国でも、それ以外の分野で環境保護先進国として名高いノルウェーや、CO2排出ゼロ社会を目指すアイスランドの足元にさえ及びません。捕鯨の規模や強硬度合いもさることながら・・。
 政治的な構図という意味では、捕鯨と共通する図式がもう一つあります。それは二酸化炭素排出抑制に後ろ向きな(一部の)発展途上国の言い分です。すなわち、「温暖化を招いたのは先進国の責任だ!」という理屈。「クジラを捕り尽くしたのはお前たち欧米の白人だ!」という捕鯨擁護派の主張(罵声?)と実によく似ています。ついでにいえば、「米国が大量の核を保持してるんだから、うちが一握りの核を持ったところで文句を言われる筋合いはない」という北朝鮮のロンリともそっくりですし……。
 温暖化問題に照らして考えればわかるとおり、過去の責任の所在を云々するだけでは事態は何一つ解決しません。もっとも、南極海でのクジラ乱獲に対しては、総捕獲量だけでもノルウェーに次ぐほどの重大な責任が日本にはあるのですが……。EU諸国が化石燃料消費節減に向けて厳しい自己規制を課しているように、かつての捕鯨国も捕獲から保護へと全面的に転じました。それらの国々に対し、鯨類と海洋環境保護への取り組みがまだ不十分だという声はあるでしょう──それらの国々の中で保護を訴える市民と同じように。しかし、それは水産物に依存してきたはずなのに海辺を潰し、大量の廃棄物を投棄して海を汚しまくっている日本人が"他人のことをとやかく言える"立場にはないはずですよ──。

 最後に4番目。これは外交的手段として地球温暖化と捕鯨問題を絡め、一石二鳥の解決を図るという一つの提案です。具体的には、日本が南極/公海における商業捕鯨から撤退するのと引き換えに、米国に化石燃料消費削減に向けたステップを踏んでもらうという──。
 もともとクリントン=ゴア民主党政権時代にはIPCCの取り組みに参画するはずだったのが、ブッシュ政権になったばかりにひっくり返されたもの。政府の政策転換にはもちろん、国内の石油メジャーなど産業界から反発も上がるでしょう。しかし、西海岸の諸都市ように自治体レベルでは欧州にひけをとらない(日本とは比べ物にならない)進んだ環境対策を推進しているところもありますし、ハリケーンの襲来をはじめとする異常気象に、米国市民一人一人も気候変動の脅威を肌で感じているはずです。原油高騰と中東問題でブッシュ大統領でさえ自動車の燃料転換や雑草のエタノール資源化に積極的になるほど・・。サブプライムローン問題のせいで米国及び世界経済に翳りが生じていますが、非化石燃料社会に向けた産業転換と政府のテコ入れは、不況を回避する景気刺激策にもなるでしょう。まあそこまで楽観的になれずとも、先行する欧州と合わせ世界経済の活性化に一役買うものであることは否定できません。優勢な民主党が次期政権を握ったならば、世界が歓迎するシナリオが実現しないとも限らないのです。逆に、もしこの期に及んで米国が変わらなければ、地球そのものの将来も悲観せざるを得ませんが……。
 ほっといてもそうなる? でしょうね。しかし、返ってそのほうがハードルが下がります。タイミングを見計らって便乗するだけでいいのですから。「うちは捕鯨をやめてあげますよ。だから、おたくは温暖化対策に真剣に取り組みなさい」と声をかける"演出"だけで。「"いっせいのせ"でやめましょう」と。「数値目標の受け入れ⇔公海からの撤退」という形の一種のバーター取引ですね。国内に痛みを伴う政策転換を実施するにあたり、外交を理由(/盾)に批判を回避するとともに、対外的にも高いポイントを稼げるわけです。それもお互いに。まさに"花道"というやつですね。それこそが外交手腕というものでしょう。固執する一部の関係者のせいで、ヒッコミがつかずに実のところ困っていた外務官僚にとっても"渡りに舟"。本当は、オーストラリアの対温暖化政策転換を照準にできればなお理想的だったのですが……。どこまで譲り、どこまで引き出せるかという詳細の問題は残りますが、実質的にはわずかな損失で("痛み"は大きいでしょうけども・・)、非常にオイシイ(地球にとっては・・)成果を生むことができるはず。特に先手を打つなら、日本が環境保護に非常に大きな貢献を果たした国として世界中から賞賛を浴び、尊敬される国になれること請け合いです。
 今夏の洞爺湖サミットを花道の舞台に選ぶのも一興かもしれません。環境を主要テーマにせっかく日本で開催されるんですし。まさに世界中の人々の視線を引きつけるサプライズになるでしょう。"環境破壊の権化"とばかり内外で罵られてきた現米大統領も、引き際にふさわしくイメージ転換を図ろうと乗ってくるかも? 国際的な外交舞台で存在感がおそろしく希薄になっている日本政府に、ここはぜひとも奮起してもらいたいところですニャ〜〜。

《CO2排出量計算の参考リンク
http://www.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/material/
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kankyou/ondanka1.htm
http://www.eccj.or.jp/ship/fishing/index.html
http://www.jccca.org/
http://www-cger.nies.go.jp/publication/D031/index-j.html
http://www.nmri.go.jp/lca/lca_hp/pdf/15.pdf
http://www2.kaiyodai.ac.jp/~kuse/introduction/pdf/07s_hamada.pdf
http://www.sof.or.jp/jp/outline/pdf/06_06.pdf
http://www.sof.or.jp/jp/report/pdf/200003_4_88404_006_6.pdf

http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2007energyhtml/html/1-1-1-3.html
http://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/download/pdf/2004EBXRCAN0600.pdf