■驚異の深海生物達
−海の大部分を占める深海の珍しい住人達−
by 山田 海人
海人のビューポート
2006年2月8日オープン
未知の深海に生息する深海生物は、発光器官をもっていたり、目が異常に発達していたり、逆に目が極端に小さいあるいは無かったり、餌をとるために大きな口であったりと特異な形態をしています。
これら深海生物の中から特異に変化してしまった深海生物をクローズアップしてみました。これらの深海生物を紹介することで未知の深海の環境を理解する一助になれば幸いです。
名称は 和名 英名 学名の順で記載しています。
1.生きた化石
(1)シーラカンス Coelacanth Latimeria chalumnae
- 7000万年前に絶滅したと考えられていたシーラカンス(Coelacanth。少なくとも3億8000万年間存在している古代の魚)は、南アフリカの北東海岸沖の浅い海域に生息しているのが1938年発見され、1998年にはそこから遠く離れたインドネシアで別種のシーラカンスが発見されたのでした。
シーラカンスは3億8千万年前の地層からも化石が発見され、生きた化石として有名、水深100m〜700mの深海に生息している。雄170センチ、雌200センチで卵胎生、肉食で魚やイカを食べている。
南アフリカで2匹目が発見されたのは何と14年後の1952年でした。12月20日に、重さ88ポンド(約40s)の個体が捕らえられ、それが飛行機で運ばれ、ついに手にしたスミス教授は14年間も待ったあまりの感激に涙が止まらなかったと述べています。
その後、約200個体が捕獲され、その大半はマダガスカルの北西の海岸沖のコモロ諸島のうちの2海域(西インド洋)で捕獲され、他は数匹の南アフリカ、モザンビークおよびマダガスカルから捕らえら、半分が科学的な研究に使われたそうです。
これらの実績から、南アフリカ海域のシーラカンスの全数は500匹程度と考えられています。したがって1989年最も絶滅の恐れのある絶滅危惧T類の種として登録されています。これにより博物館へ展示する標本としても捕獲・持ち出しが規制されたのでした。
=>The Fish Out of Time
=シーラカンス 発見のドラマ!(山田海人)
- (2)オウムガイ Nautilus Nautilus pompilus
- 4億5000万年前から生き続けている生きた化石のオウムガイです。太平洋・インド洋の熱帯海域の深海に生息しています。
体長は20センチほどで触手が60〜90本もっていて目には水晶体がないことからイカやタコとは異なります。また、頭足類では唯一外部シェル(external shell)を備えています。このシェルの内部にはガスが入っていて浮力調節に使われていると多くのサイトで説明されていますが、今ではそれは間違いであることが知られています。
オウムガイは水深が100mから600mの範囲を浮き沈みすることができますが、殻の中の気体は、数百mもの水圧に打ち勝つ数十気圧もの圧縮空気ではなく、ごく低圧のガスです。また、カメラル液というものを分泌して浮力を調節しているという説明もありますが、どうやら中性浮力を一定に保つことしかできず、鉛直方向の移動には、もっぱら漏斗(ろうと)と呼ばれる部分から海水を吐き出す推力を用いているようです。
オウムガイの目は非常に原始的でピンホールカメラのような目をしています。日中は深海にいますが夜間は浅いところで餌を採っています。
大英博物館には1808年に描かれたオウムガイのイラストが残されています。
=>fotocommunity - Nautilus Pompilus
- 2.原子力潜水艦を攻撃したサメ
ダルマザメ Cookie-cutter shark Isistius brasiliensis
- ダルマザメは体長50センチほどの小型のサメで腹部には深海魚特有の発光器官をもっている深海サメです。この深海サメが有名になったのはその並はずれた攻撃力です。
1951年原子力潜水艦が太平洋を航行中、ソナードームに異常を生じたので調べてみると、ナイフでもなかなかカットできないソナードームのゴムカバーが刃物のようなもので鋭く丸くカットされていたのです。航行中に近寄った不審なものも考えられず、専門家の調査に委ねられました。 その結果、ソナードームのゴムカバーを切り取ったのはダルマザメの仕業であることが判明しました。
他にも1991年にはメキシコ湾で海底地形の調査船から曳航されていたストリーマーケーブルが、ダルマザメによって丈夫なカバーを咬みきられ、中からケロシンが流れ出て海底調査が中断させられたこともありました。
ダルマザメは通常活発に遊泳しているマグロ、クジラ、サメなどの大型回遊魚の身体をかじり取ってその皮や肉を食べているという特異な食性をもった深海サメです。行動として日中は深海で生息し夜間には表層に移動して餌となる大型回遊魚などを狙っているようです。
最近の研究ではマグロなど遊泳力の速いものには餌となっておびき寄せ、喰われる直前に身をひるがえしてマグロの腹部などに鋭い歯で噛みつき、特殊なクチビルでふさぎ、身体を回転させて肉をそぎ取っていると言われています。このようにマグロのスピードを利用して鋭く身をカットしているという凄い深海サメです。
=>Australian Museum Fish Site
=深海の忍者 ダルマザメ(山田海人)
- 3.メスの1/20ほどの貧弱なオス
ミツクリエナガチョウチンアンコウ Triplewart Seadevil Cryptopsaras couesii
- 深海の厳しい環境の中でメスがオスを見つけることは至難の業でしょう。我々人間は陸を平面的に歩いているのですが、チョウチンアンコウは空中を漂っているような水深1000m〜2000m深海の中深層に生息しているので三次元の世界、これではなかなか仲間と出会えないのです。
繁殖行動のためには欠かせない相手をどうして見つけているのでしょうか? このチョウチンアンコウのオスは何とメス(44センチ)の1/10から1/20程度のサイズ(2センチ)です。一度出会ったらもう離すものかとメスの身体に噛みついて離さないのです。そのうち両者の皮膚、そして血管まで癒着し、オスはメスからの栄養分を貰って寄生します。この寄生オスはやがて牙や目そして腸まで退化し、精巣を発達させ生殖のための機能としてメスの身体に同化する珍しい生態をしています。
ある個体ではメスは30センチで、腹部の後ろに寄生していたオスは5.5センチで、オスは逆さ状態のままでした。この姿勢はオスにとって辛かったのでしょうか、あるいはこの姿勢が意味がある姿勢だったのでしょうか? まだ謎です。
Australian Museum Fish Site
- 4.世界一大きな虫
ダイオウグソクムシ Giant isopod Bathynomis giganteus
- 深海の巨大症( deep - sea- gigantism)という言葉があります。イカやタコ、サメなども深海には大きなサイズのものが棲んでいるというものです。虫にも大きなものがいます。このダイオウグソクムシは水深300m〜2100mの西大西洋、インド洋北部に生息しているもので長さ50センチ、重さ1.7sにもなる大きなもので、ネコぐらいの大きさといったらお分かり頂けるでしょうか。
日本の深海にいるオオグソクムシは水深150m〜500mに生息し全長12センチ、重さ40グラムほどですから、ダイオウグソクムシがいかに大きいか判ります。相模湾の軟泥の海底にはこのオオグソクムシが多くいて、サバなどの餌を海底に置くと最初に現れるのがこのオオグソクムシで、次がヌタウナギです。
私もこのオオグソクムシを煮て食べてみましたが、身体の大半が消化器官で、身は極めて少なかったことを覚えています。ダイオウグソクムシも毒はないので食べられるようです。
よく見ると目に特徴があり、スポーツ選手がしているようなシャープなサングラスをしているような目で、海底でも素早い動きで死んだ魚などを食べています。
=>Giant isopod
=ダイオウグソクムシは深海の掃除屋(山田海人)
- 5.世界一大きなカニ
タカアシガニ Giant spider crab Macrocheira kaempferi
- エビ・カニなどの甲殻類、さらに節足動物の中で世界最大の大きなものが日本や台湾の水深150m〜800mの砂泥の海底に生息するタカアシガニ Giant spider crabです。
オスの大きなものは鋏脚を拡げると5.8mにもなるものがあった(1921年)と記録されています。ここまで大きくなくとも3.5〜4.5mになるものがあったようです。メスは脚もみじかく小ぶりです。
相模湾で200〜300mの潜水実験の折りには、海底で作業しているダイバーが10匹近くのタカアシガニに囲まれたことがあり、好奇心が強いようです。水温は13℃以下の海域に生息しますが冬場は浅い海底にも現れ、春の産卵期には水深50m程度の浅瀬で産卵しています。
=>タカアシガニの飼育期間 世界一
- 6.大きなイカ
ダイオウイカ Giant squid Architeuthis japonica
- 無脊椎動物の中で最大サイズになるのがこのダイオウイカです。世界中の深海(200〜3000m)に生息し、6〜18mにもなる大きなイカです。これまで時折、海岸に死骸として漂着しています。餌は深海の大型の魚類と言われています。
ダイオウイカはマッコウクジラの餌として知られ、捕鯨が行われていたころはマッコウクジラの胃からダイオウイカが多く見つかっています。学名にjaponicaがついているように日本近海に比較的多いようです。
また、ダイオウイカのクチバシがマッコウクジラの胃の中でゼリー状に固められ排泄されたものを"竜涎香"と呼びますが、香の原料として高価に取引され、2006年1月南オーストラリアの海岸に17キロもの竜涎香が打ちあがり、日本円で3400万円にもなったと報道されていました。
=>Giant squid
=ダイオウイカの謎(山田海人)
=竜涎香とは(山田海人)
- 7.世界最大のイカ
コロッサル・スキッド Colossal squid Mesonychoteuthis hamiltoni
- 最初の発見は、1925年で登録されていました。当時は大型というだけでしたが、2003年に南極の深海(2000〜2200m)から見つかった個体は大きいにもかかわらず幼体であったため、成長するとダイオウイカより大きくなり20mを超えると判断され、ジャイアントより大きなコロシアムからコロッサル・スキッドと名付けられました。
特徴はダイオウイカより大きな口、大きな目、そして触腕には吸盤でなく回転する大きなツメがあります。
=>Super squid surfaces in Antarctic
=巨大イカ(コロッサル スキッド)の発見(山田海人)
- 8.宇宙人の表情のようなクランチド・スキッド
クランチド・スキッド Cranchid squid Phasmatopsis Lucifer
- メキシコ湾で捕獲され1963年に新種として登録されたイカです。目の間が狭くまるで宇宙人のような表情のユニークな深海イカです。全長10センチほどの小さなイカですが、捕食者が迫ってくると身体を透明にして避難できる"透明人間"のような能力があります。その独特の表情から"深海生物らしい"として好評を得ています。
=>ocean explorer
- 9.幼魚は浅海でも深海魚
フジギウオ Gibber fish Gibberichthys pumilus
- フジギウオと名付けられた由来は、成長した親のフジギウオではなく、幼生の形態からです。親は水深300〜1100mに生息していますが、幼生は表面から水深50mほどの浅海で豊富な餌に囲まれて育ちます。
1964年の夏、フロリダ沖で稚魚2匹が採集されました。サイズは15.7ミリと21.2ミリでしたが、研究者が注目したのは特異な腹ビレの形態でした。腹ビレの基部の前方から糸状に伸びた先は枝分かれしていて、その先に房状の物体が付いていたのです。その房状体は糸の部分を含めて身体の長さほどもある大げさなものであったのです。
この房状体の機能は謎だが、敵から身を守るためのカモフラージュ説、また、他のクダクラゲ類やその近縁種に擬態することで捕食者から逃れる説、もう一つは雌雄間で形態に差があり、特徴として役立つのではないかと言う説が考えられています。
当初、稚魚の所属がわからず1965年の報告では新科( kasidoridae )が設けられたほどであったが、その後の研究で、すでに知られた深海魚の子供であることが判かりました。
和名のフジギウオは最近付けられたもので、親子の形態の違いがあまりに大きく"不思議だなという研究者の気持ちを表現したものと言われています。
=>FishBase
- 10.奇妙な目の深海魚
ボウエンギョ Telescope fish Gigantura indica
- 大きな顔にレンズを備えた望遠鏡のような目をもった顔をしていて、身体は先細りの魚で鼻は短く、大きく広がる口、鋭い歯、そして大きく拡張する胃を持っています。
尾ビレは割り込んでいて下が長く、そして腹ビレ、アブラビレはありません。
この特徴のある目は光りを収集するのに適していて、上方向が見やすくなっていて餌の生物発光が見やすくなっていると言われています。受精卵は浮力があり海面に向けて浮いていくようです。 この稚魚は親と全く違う形態をしており大西洋で観察されています。
FishBase
海人のビューポート