■キム・スタンリー・ロビンスン

 キム・スタンリー・ロビンスンの『マーズ三部作』など

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2004年1月19日更新

地球外生命・惑星改造SFへのショートカット

●マーズ三部作(キム・スタンリー・ロビンスン)西村屋選
・「レッド・マーズ」(1993、キム・スタンリー・ロビンスン、創元SF文庫)
 ネビュラ賞、星雲賞、英国SF協会賞受賞。2026年、火星の多国籍からなる植民者100人が入植する。火星環境の改造と独立戦争をリアルに描く。火星環境改造の手法として、バイオ・テクノロジー、マントルまでの掘削孔(モホール)の掘削、氷小惑星を火星に衝突させるなどが登場。小惑星の鉱物資源を利用して軌道エレベータが建設される。
 行政能力に優れ、権力志向の強いフランク・チャマーズ、最初の火星飛行士で、英雄として尊敬を集めているジョン・ブーン、美貌で多感・激情型のマヤ・トイトヴナ、天才的な土木技師で朴訥なナディア・チェルネシェフスキィなど数十人もの登場人物を描きわける力作。
 2061年に火星の第1次独立戦争が勃発、軌道エレベータは破壊され、帯水層からの水の噴出による大洪水、フォボスの落下というカタストロフィーの後、the First Fundred(最初の100人の入植者)の生き残りたちは国連暫定政府に追われ、逃亡の旅に・・・。

書評

・「グリーン・マーズ」(1994、キム・スタンリー・ロビンスン、創元SF文庫)
 ヒューゴー賞、ローカス賞受賞。「レッド・マーズ」の続編。やっと翻訳が出た。
 2061年のカタストロフィーの後、暫定政府に追われてFirst Hundredたちは南極周辺の避難所に隠れ住み、革命のチャンスを伺う。軌道エレベータが再建され、火星に降り注ぐ太陽光を増加させるための反射鏡がラグランジュ点と極軌道の昼夜境界線に置かれる。さらに、低軌道にレンズが周回し、火星表面を溶かして温室効果ガスを増加させるという過激な手段まで登場。帯水層からの汲み上げが活発化し、火星上に海が復活し始める。
 2127年、地球で西南極氷床の崩壊による6mもの海面上昇に見舞われ、それを機に、第2次火星独立戦争が勃発する。

・「Blue Mars」(1995、キム・スタンリー・ロビンスン、Banbtam paperback)
 ヒューゴー賞、ローカス賞受賞。火星はついに独立した。しかし、急進派であるKakazeのKaseiたちが軌道エレベータの破壊を目論み、さらなる流血の事態が・・・。Saxに要請されたAnnは、反射鏡の除去を条件に、急進派を説得する。2128年に火星独立政府が成立。Sax、Maya、Michell、Nirgalの4人は地球に向かい、あらたな条約を締結して移民の受け入れを再開する。
 革新的な核融合エンジンが発明されて、人類は水星から冥王星まで活動範囲を広げ、2206年、ついにアルデバランへの最初の移民が出発する。長寿措置を受けたFirst Hundredたちが死亡し始め・・・。

マーズ三部作の登場人物組織地名年代データシート

the Red Hreen & Blue Mars Site

●「南極大陸」(1998、キム・スタンリー・ロビンスン、講談社文庫)
 時代設定は近未来。地球平均気温は1世紀半前より10度C上昇。異常気象の増大、若干の海面上昇がある時代みたい。9月のワシントンDCが46度Cで湿度100%。世界人口は100億人を越え、うち40億人は電気の供給を受けられない。
 南極大陸を舞台に、科学者、多国籍企業による石油・メタンハイドレート開発の思惑、急進的環境保護派(過激派)、自給自足を目指す多民族集団を描く。
 ユニークだったのは、研究者(通称ビーカー)と研究補助者の関係が描かれている点。研究補助者はNSFから民間委託になっていて、ASL社(AntarcticSupport and Logistics)の社員。NSFはなかなかこすっからいことをしていて、民間委託先を数年毎に入札していて、最初がホームス・アンド・ナーヴァー社、次がITT社、次がASA社(南極支援会)、そしてASL社。ASA社が受託している間、NSFはASLを下請けに使わせ経験を積ませ、次回の入札で対等に競争できるようにしている。こんなひどい方法でより安く入札できるように予算削減している。その分、研究補助者が低賃金でこき使われていて・・・。あとは読んで下さい。とても他人事とは思えない話の展開です。
 もうひとつ、鮮新世(500〜170万年前)に南極大陸に珪藻とブナが育つ環境にあったか、つまり、南極氷床が東も西も崩壊していた時代があったかどうかの科学論争を扱っている。
 南極大陸を南極横断山脈でもって西南極氷床(WAIS。ロス海、ウェッデル海側)と東南極氷床(SAIS)に分けると、西側(WAIS)の底は海面より下にあるために崩壊しやすく、少なくとも過去数十万年の間に一度は崩壊したと考えられている。
=>過去50万年間の気候変動と西南極氷床の崩壊
 一方東側の氷冠(SAIS)は海面より上の大陸上に存在しているため安定しており、南極大陸が今の位置まで移動して南極周回流が成立して以降、氷床が発達し、少なくとも1400万年前から東の氷冠が安定的に存在していたとする「安定説」が学会の主流を占めている(という物語の設定)。
=>いろんな時間スケールの気候変動
 それに対して鮮新世(500〜170万年前)にSAISが崩壊した証拠を探す「変動説」の研究者グループが、ついに決定的な証拠を見付ける。これは温暖化によって東の氷冠が崩壊しうることを意味する・・・。
 この論争は現実に行われている論争のようです。
 作者本人が南極のSFを書くという理由でNSFに採択されて、実はその前年度、火星のSFを書くという理由で申し込んだ時は非採択だったそです(笑)。この本の中にも風水師、画家、写真家、映画監督、小説家、彫刻家、科学ジャーナリスト、サウンド・アーティスト、映画監督がNSFから招聘された設定になっています。
=>南極氷床に関する論争
ASL:Antarctic Supply and Logistics
BFC:バーグ・フィールド・センター
GFA:一般野外作業補助員
NTSB:国家運輸安全委員会
SCAG:サザンクラブ南極部会
SCAR:南極研究科学委員会
SPOT:南極点陸上輸送車
SSSI:特別科学関心地区
WDC:自然保護クラブ
WOO:プログラム訪問者


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