■第41回日本SF大会−海洋企画−開催結果報告

 2002年7月13〜14日、第41回日本SF大会公式サイト(ゆ〜こん。島根県玉造温泉)で、初めて海洋SFセッションを開催しました。その結果を報告します。

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2002年7月25日更新

海洋企画のゲスト紹介

 有志が集まって企画。SF大会実行委員会には企画内容への助言、会場の無償提供、マイク・ホワイトボード/机の貸し出し、会場への機材搬入と展示ポスター飾り付け作業などを行っていただき、JAMSTECからは展示ポスター、パンフ、ビデオ・ソフト、OHP等を提供していただきました。また、試験的にJAMSTECグッズの販売を行いました。
 これまでSF大会に参加したことのない者ばかりで企画したため、右も左も分からない状態での本番でした。
 内容は、公開企画(大ホール)とオールナイト企画(小宴会場)に分かれます。


■「水の星”地球”の奇跡−深海への挑戦」(一般市民にも公開)
7/13(土)13:00〜14:30 公共温泉施設”ゆーゆ”の大ホール(3階)
透過式スクリーン+ビデオ・プロジェクタによる映像と解説
司会と説明:西村屋
ゲスト:都築 由浩(SF作家)、長沼 毅(広大助教授)

 7割を平均深さ3700mの海で覆われている水の星”地球”。その深海のみならず海底下の地層内にまで、多様な生命に溢れていることが少しずつ分かってきた。
 46億年前に誕生した地球は、その環境を造り替えつつ、生命の誕生と進化、超大陸の形成と分裂、幾多の生物大絶滅の危機などを経て、今もダイナミックに息づいている。
 その奇跡に迫る手段として、海洋科学技術センターの自律型巡航無人機「うらしま」、マントルへの到達を目指す地球深部探査船「ちきゅう」、世界最高速の並列スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」などの開発状況、さらには、「しんかい6500」や無人機「ドルフィン-3K」などが捉えた沈没船「ナホトカ号」重油流出状況、熱水噴出孔の特異生態系、新種の巨大イカ、不思議な輝きを示す浮遊生物などを最新映像で紹介する。

放映したビデオ映像

=>第41回日本SF大会 ゆ〜こん 極私的レポートYamakenさんのサイトより)

=>都築由浩 Event Report


■「海底牧場 707番地」(大会参加者のみ)
21:00〜翌7:00 松の湯「千鳥」(35畳)
 場所は宇宙作家クラブの「宇宙基地」に隣接している。
>  35畳の奥に42インチ・プラズマ・ワイドTVを置き、周囲に展示ポスターを貼り、入口横に、パンフ配布、JAMSTECグッズ販売、ベスト地球・海洋SF投票用のテーブルを置く。

=>会場風景(by 藤崎慎吾)

展示ポスター一覧

 かつて、ノーチラス号、サブマリン707、青の6号、スティングレイ、シービュー号、轟天号などモンスターや潜水艦バトル、あるいは、ムー帝国やアトランティス帝国の登場する海洋SFのヒット作品が相次いだ時代があった。
 今や地球規模問題が顕在化するにつれて、人類にとって海洋の重要性が大きくなっている。その結果、惑星探査や深海調査によって、変動する地球のさまざまな神秘が次第に明らかとなってきた。
 そんな今こそ、新しい魅力を持った地球や海洋のSF作品が生まれる下地が整ってきたといえるのではないか。
 ゲストに「サブマリン707」の小澤さとる氏と「クリスタルサイレンス」の藤崎慎吾氏を迎え、一般公開企画「水の星”地球”の奇跡−深海への挑戦」で紹介した新しい地球像・生命像とテクノロジーについてより深く紹介するとともに、それを出発点として、これからの海洋SFやスーパー・サブマリンの姿を探る。

 ●21:00〜(90分):「海洋開発とSFの過去と現在」
司会:西村屋

海洋SFと科学技術年表(ポスター掲示)

地球・海洋SF主要作品の紹介(印刷物を配布)

=過去の名作サブマリンの紹介(ポスター掲示)

・50〜60年代は、バチスカーフの潜水記録、大陸棚海底居住実験、新型潜水調査船の建造と200海里時代が海洋開発のブームを作る。その中で潜水艦モノが隆盛。

・70年代は、公害・薬害の多発、オイルショックなどから、文明に対する疑問が生まれ始める。「2001年宇宙の旅」からSFのハード化が進む。小松左京「日本沈没」、田中光二「怒りの大洋」三部作、カッスラー「ダーク・ピット」シリーズが海洋開発をリアルに描く。

・80年代は、原発事故、惑星探査の結果、「かけがえのない地球観」が広がり始める。日本がバブルの絶頂期。ナウシカなど環境問題を考える内省的作品が増え始める。

・90年代は、冷戦構造の崩壊による民主化への期待と内戦の増加、日本経済の停滞、日本の技術神話までが崩壊。星野「ブルーホール」シリーズ、モラン「氷の帝国」シリーズなど地球科学の成果を取り入れた作品が急増。

 参加者より、「21世紀潜水艦」もなかなかの傑作との紹介あり。ほか、「海底五万マイル」(G・アダモフ)の紹介もあった。

○「しんかい6500」の技術と有人1万m潜水船の夢(ゲスト:青木太郎 JAMSTEC研究主幹)

・有人潜水船を建造できるのは、原子炉耐圧容器の製造設備を持つ国に限られる。これまで6000m級を建造したのは米(シークリフ)、カナダ(ロシアのミールI&II)、仏(ノチール)、日(しんかい6500)。

・耐圧球はピカールのバチスカーフ以来の直径2mが基本となり、そのまま引き継がれていて、なかなか変えることができない。浮力材がガソリンタンクからシンタクチックフォームに変わって全体のサイズが小さくなっただけ。
 耐圧殻を大きくしたり円筒形にするためには、ナノチューブ技術によるダイアモンド耐圧殻など画期的技術が必要。

・深海への往復手段としてはバラスト2セットで上昇・下降する。表面付近の海水の比重は1.03、深海の海水の比重は高圧のため1.05となるため、バラストを使わずに上昇・下降しようとしても、ある水深以上下降できなかったり、ある水深以上浮上できなかったりする。推進器と翼を使って下降・上昇することはできるが、推進器を止めると水深を保つことができない。

・米バチスカーフ「トリエステ号」マリアナ海溝10900m潜航の謎:以下の理由により、人類はまだ地球最深部に到達していない可能性が大きい(「アルシメード」が日本海溝9000mに潜航したのは事実。)。
 ピカールとドン・ウォルシュの2人が乗船。船外の写真が何も残っていない。
 8000mで窓にヒビが入ったというが、その状態で10900mまで無事到達できるはずがない。
 海底でフラット・フィッシュ(ヒラメ?)が見えたというが、10900mで脊椎動物が生存する証拠はない。ソコエビ(甲殻類)やナマコらしきものしか発見されていない。

 参加者より、耐圧殻の中の圧力の質問あり。有人潜水船の場合は内圧は1気圧。中を加圧すると減圧に時間が掛かったり、ストレスも大きいため、大変。


22:30〜(30分):休憩、グッズ販売

 ●23:00〜(90分):「海洋開発とSFの未来」
司会:西村屋

○自律型巡航無人機AUV「うらしま」の技術(ゲスト:青木太郎 JAMSTEC研究主幹)
 リング・レーザー・ジャイロ(慣性航法装置)、燃料電池、ナノ・チューブによる水素吸蔵、音響レンズによる海中画像認識、北極海横断観測計画、海洋物質循環研究
・動力源が最も問題。原子力を使うことが許されていない。固体高分子型燃料電池を使用。

・「うらしま」を自律航行モードにしたところ、支援母船からの制御を受け付けなくなって、勝手に潜航を続けたことがある。原因は音響レンズの素子の一つが水圧で網膜剥離のような状態となり、障害物と間違えてそれを避け続けたせいだった。

・3号機で北極横断5,000kmを目指す。

 原研の原子力海中航行観測船構想の紹介(西村)

・北極海は、シベリア等の大河川からの淡水が表面を覆い、その下をベーリング海峡からの太平洋水、さらにその下に暖かくて塩分の濃い大西洋水がある。このような成層構造のお陰で表面付近の海水が冷やされても沈降・滞留が起こりにくく、海氷ができる。海氷は太陽光を反射して北極の気候を寒くする。もしその成層構造が弱まると海氷が出来にくくなり、地球は熱暴走する。

・海氷面積が減ると北極海の植物プランクトンが大増殖し、それが作る硫化ジメチル(DMS)が北極圏の低層の雲(北極層雲)の凝結核となり、北極層雲は北極の気候に複雑な影響を与える。

・米スタージョン級原潜による北極海科学調査が毎年1航海、5人の科学者を乗せて行われていたが、スタージョン級の引退によって、氷海浮上能力のある原潜がなくなった。その後、ロサンジェルス級後期から氷海浮上能力を有するようになったが、東西冷戦構造の崩壊、米軍事費の削減、中東その他の地域情勢の悪化によって、北極海に配備される原潜の絶対数が減少し、現在は、水温・塩分データが提供されているのみ。

・自然循環式小型原子炉を持つ海中航行型観測船の概念設計を行ったが、その実現は原子力が社会に完全に受け入れられるずっと将来になるため、燃料電池によるAUVが必要。

○マントル・ダイナミクス
=地球の進化6.5億年、過去への旅2.5億年、未来への旅(ポスター掲示)

○科学技術調整費「全地球ダイナミクス」の成果ビデオ(過去10億年の地球進化)

地質年代史

・地球内部は地殻、マントル、コア(地球中心核)からなる。マントルは固体。マグマは溶けたもの。

・プレートが沈み込む際に海水も堆積物と一緒に沈み込む。地殻・マントル内に水が入ると岩石の融点が下がってマグマとなる。水はマグマ活動によって大気に戻る。

・ところが、7億年前、マントルの温度が低下し、海水がマントルにまで流入するようになって、海面が600mも下がり、大陸面積が一気に広がった。
 海水は、マントル活動を活発にする燃料の役割を果たしている。

・沈み込んだプレートの残骸は、いったん上部マントルと下部マントルの境界(遷移層)に滞留しているが、時々、それ(滞留スラブ)が下部マントルに向かって崩落する。その際に、マントル活動が激化する。天皇海山列が4000万年前に折れ曲がったのは、この崩落が終わってマントル活動が静かになった時と思われる。

天皇海山列の屈曲

 その後も超大陸の成立と分裂、マントル活動の活動期と静穏期を繰り返しながら現在に至っている。

・海がマントルの中のどこにどのように存在するかが、最もホットな研究課題。地震波トモグラフィーと電磁気トモグラフィーによってそれを見付けようとしている。

・一億年前の白亜紀は、北極・南極から氷がなくなった。すると、海氷で表層の海水が冷却されにくくなり、深層循環が弱まった。この頃、無酸素海洋が出現し、石油ができた。ただし、白亜紀の間、ずっと無酸素海洋だったわけではない。熱塩循環は続いていたらしい。ところが、時々、何かが引き金となって石油ができた。何が引き金となったのが謎。そうしたイベントが発生しなかったら、現在のような石油に依存した文明は誕生しなかった。

・今現在、アジア〜フィリピンに向かって諸大陸が集まろうとしており、2.5億年後には新しい超大陸ができる。

0:30〜(30分):休憩、グッズ販売
○地球シミュレータ紹介ビデオ

 ●1:00〜(90分):「地球と生命〜地底から海そして宇宙へ」
ゲスト&司会:藤崎慎吾、長沼 毅(広島大学助教授)

・岩塩に閉じこめられた太古の微生物

・東濃地科学センターでの1000mもの地下にある「超深地層研究所計画」

・南極大陸のボストーク地底湖の一歩手前まで掘削しているが、汚染を恐れて中断されている。

・「しんかい6500」でエウロパの氷の下の海を調査することは現実的な計画。水圧は大丈夫だが、分厚い海氷を突破する方法が問題。海氷自体に生物活動の証拠があるかもしれない。

・酸素のない地殻内では水素や硫化水素が酸化剤の代わりをする。

・脱水反応が必要であるという点で、熱水噴出孔周りの海中で生命は誕生しない。地殻内でも水があれば岩石をエサにして生物が誕生しうる。

・アミノ酸、糖がL型又はD型分子に偏っている理由が不明。

 生命はどうやって誕生するのか、バクテリアとウィルスとでどちらが先か・・・という話題から、さらに発展して、知能はどうやって生まれるのか?という話題へ。世界中のニューロ&ファジーの洗濯機や炊飯器をインターネットで接続すれば知能が生まれるのか?

2:30〜(30分):休憩、グッズ販売

 ●3:00〜7:00:「海洋SFロマン夜話」
○「海の中の小宇宙<<中・深層域で新種生物発見>>」 2:50:長いもの***
3:45;カーテン状***
5:00:クモの捕獲***
6:00:イカが墨を放出***
8:00:不思議なもの。***

○「ハイパー・ドルフィン」のスーパーハーブ映像
○フロリダ沖海底ハビタット「アクエリアス」日米珊瑚礁潜水調査
○地球と生命の過去、現在、未来

=第1回オールタイム・ベスト地球・海洋SF投票結果の発表


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